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2015年5月号
平成27年度税制改正と格差社会
二十七年度税制改正は、法人税率引き下げと生前贈与非課税の大幅拡充が重点施策と考えられます。アベノミクスによる経済活性化を最優先とするアベノタックスとも言うべき内容だと考えられます。具体的には法人税減税は、資本金一億円超の企業を対象としており、贈与税は預貯金、株式等保有の資産家を対象とする生前贈与枠の拡大にその特徴を見ることができます。
一方、財政再建派の主張にも配慮し、減税財源を捻出するため、減税の適用条件や段階的な適用期間など租税技術が駆使された結果、非常に複雑な内容になり、「簡素でわかりやすい」という税の基本理念が置き忘れられているような感があります。
一、 法人減税財源は、資本金一億円超の赤字企業が負担
経済の好転が伝えられますが、好調が伝えられる大企業に比較して中小企業では横ばいか、一部の業界で若干の好転が見られる程度です。また、大企業のなかでも輸出を中心とする製造業と、円安の影響を直接受ける内需型企業とでは業績に格差が生じています。このため、景気回復支援と減税財源確保の措置などが複雑に絡み合っています。
- (1)中小企業への配慮
- 資本金一億円以下の一般の中小企業には、返済財源確保のための外形標準課税の導入が見送られ、中小企業特例である所得八百万円まで法人税率十五(実効税率二十三・〇二)パーセントは据え置かれました。しかし、経済回復に伴い、いずれ中小企業にも外形標準課税制度導入問題が浮上することも考えられます。
- (2)法人税制は実効税率の時代に入る
- しかし、減税財源の確保を法人税の中で捻出することが求められ、法人事業税に導入されている外形課税標準に対する税率をこれまでの二倍に引き上げる一方、所得に対する税率は二分の一に引き下げるなどの改正がされ、赤字法人には辛い内容になっています。事業税額の計算基礎とされる外形標準課税制度は、資本金額や賃金額の大きさに課税されるため、赤字であっても資本金額が大きい企業や雇用者が多い企業には業績に関係なく税額が大幅に増加することになります。このほか、繰越欠損金控除限度額引下げや、受取配当金の益金不算入額の縮小などの減税財源確保のための措置がされました。資本金一億円超の法人数は全法人の上位一・六パーセントに過ぎませんが、これらの企業間の格差が拡大すると考えられます。
二、 総額六千万円の生前贈与が可能
贈与税の改正では、新たに「結婚子育て資金一括贈与一千万円」「住宅資金贈与最高額三千万円、ただし段階的に増減」「ジュニアNISA四百万」が創設され、これまでの教育資金贈与千五百万円も含め、生前贈与適用額の合計額は五千九百万円に上ります。しかし、適用要件や期間などが複雑に定められていますのでご注意ください。
さて、どんな資産家がこんな生前贈与ができるのでしょうか。世帯別金融資産保有額の統計資料では五千万円以上の保有者は全世帯の八パーセント弱、一億円以上保有世帯数は全世帯の一・九パーセントに過ぎません。ほんの一握りの資産家が対象であり、一般のサラリーマンには無縁の制度だと言わざるを得ません。