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2015年7月号
マイナンバー制度と中小企業の実務対策
1.マイナンバー制度は煩わしい
マイナンバー制度の正式名称は「行政手続きにおける特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(以下:番号法と言います) という長たらしい法律ですが、社会保障や税番号制度の根拠法と位置付けています。十月以降に具体的に始まる段階に入っているにも関わらず、約六十パーセントの人がよく知らないと回答しています。国民の理解がなかなか進まない背景は、次のような原因が考えられます。
①この番号法は個人情報保護法の特別法であり、これを理解しなければ、番号法全体もわからないこと。
②具体的な事務手続きは、所得税法や健康保険法などほかの法令などに規定されており、番号法だけでは具体的手続きがわからないこと。
2.マイナンバーは何に使用されるのか
番号法制定理由は、行政手続きの効率化を進めると同時に、さまざまな分野にまたがる個人情報を一元化して適正な税制負担や社会保障給付の公平化などを目指すとしています。具体的な利用分野は、次の五分野に限定される厳格な原則が示されています。これらの手続きにおいては、同時に法人番号の提示も必要ですが、法人番号は個人情報保護の対象外であり、保護手続きは不要です。
①年金分野
各種年金資格取得、年金の給付などについて番号の提示が必要になります。
②労働分野
雇用保険の資格取得、確認、失業保険の給付など、ハローワークなどでの事務手続きに必要になります。
③社会保険・福祉分野
健康保険、国民健康保険、福祉・医療保険関係、生活保護など社会福祉分野の手続きで必要です。
④税関係分野
所得税確定申告書、源泉徴収手続き、法定調書などに必要になります。
⑤災害対策分野
被災者生活再建支援金の支給事務などに利用。
これらの個人番号は、平成二十八年一月一日以降、所定の手続きにおいて適用されます。また、金融機関取引への個人番号制度の導入は、当面、任意として三年経過後をめどに検討を進めることとしています。
3.マイナンバーの取得手続き
マイナンバー制度は、法人番号と個人番号の二つに分かれますが、この二つの番号取得手続きと利用手続きは基本的に異なります。
①法人番号の取得
法人番号は、国税庁長官から十三桁の番号が本年十月をめどに交付されます。商業登記法に基づく「会社法人等番号十二桁」の前に一字の検査用数字が指定され、十三桁の番号が通知されます。法人番号は本店のみに通知され、支社、支店などには番号はありません。通知された法人番号の変更は認められず、情報カードなどもありません。また、法人番号は同税局のウェプサイトで誰もがいつでも自由に検索できます。
②個人番号の取得
個人番号の取得は第一段階の手続きとして本年十月以降、市役所から各個人宛に個人番号を記載した「通知カード」が郵送されます。個人番号は住民票コード十一桁を基準に先頭に検査用数字を加えた十二桁です。
次の段階として、平成二十八年一月以降、各人宛に送付された通知カードとともに交付申請書と写買などを市役所に持参し、写真付きのICカードによる個人番号を受け取ることになります。この番号カードの交付を受けるか否かは任意ですが、税や社会保障などの手続きにおいて簡単に本人確認ができますので、なるべく早急に交付を受けておくことをお勧めします。
個人番号カードの記載内容は、本人の写真、個人番号、生年月日、性別、氏名、住所だけが記載されています。
4.中小企業の対応策
中小企業は、次の三つの視点を重点に対策を検討することが良いと思います。
(1)法人番号の取り扱い
法人番号は個人情報保護法の対象外であり、番号が必要な書類は、税関係は法人税申告書、各種届出、支払調書など。また、社会保険関係は、社会保険、雇用保険などの手続きに必要ですが、基本的にはこれまでと同様の事務手続きだと考えられます。
(2)個人番号情報を取り扱う場合
個人番号は、番号の取得、管理・保管、廃棄などすべての手続きが個人情報保護の適用を受けます。
企業の基本的な個人番号情報取り扱いの留意点は、次の二つです。
①自社の役職員の個人番号情報の取り扱いは、税関係、社会保険関係、年金関係、雇用保険事務と利用範囲は厳格に規定されており、これ以外の用途に利用することはできません。
②個人取引先個人番号も個人情報保護法の対象になります。具体的には、税関系の支払調書に限定されますが、報酬料金、不動産の使用料、不動産譲受対価、不動産の売買または貸付のあっせん手数科、配当金の支払調書などについて使用されます。
5.個人番号情報の管理体制について
個人番号制度で最も煩わしい点は、個人番号を特定個人情報と規定し、安全管理措置をとるよう企業に求めているところです。個人情報の漏洩、滅失、毀損など防止措置について厳格なガイドラインを示しています。ただし、従業員百人以下の企業については、中小規模事業者と定義付け、一部事務の軽減も図られています。以下、主として中小規模事業者の個人情報取り扱いについて説明します。
①個人番号情報の利用範囲を明確にする。
②個人情報取り扱い事務担当者を定める。
③個人情報の安全管理(取得、利用、保管、廃棄など)について個人情報管理簿などを作成するとともに、情報自体の管理保管措置を確保しておく。
④個人情報に関する取り扱い規定の作成、従業員に対する周知徹底など。
施行までにどのようなシステムを組むべきか、具体的に検討することが必要です。個人番号は、故意による不正利用、外部流出などの場合、罰金や刑事罰を含めた罰則が定められています。過失による流出などはこのような罰則の適用はありませんが、企業の管理責任を問われ、金銭面、信用面で大きな損失を被る恐れがあります。
6.具体的な個人番号取り扱いの事務手順
①個人番号の取得と本人確認手続き。個人カードを取得している場合は、個人カードの確認だけですが、個人カードがない場合は、個人番号通知カードと運転免許証、住民票などの本人確認手続きを行う必要があります。なお、本人の家族の個人番号の取得は、当該本人の番号申告でよく、直接家族への確認義務はありません。また、個人番号の提示を拒否された場合は、手続きが必要な関係官庁の指示を仰ぐことになります。
②個人カードの利用範囲を本人に具体的に説明する必要があります。
③情報の保管場所、情報管理簿などの作成。個人情報は、特定の保管場所に確保し、個人番号簿を作成、取得日、利用日、利用目的、廃棄日などを明確に記入しておきます。また、個人番号記載の源泉徴収簿、社会保険等綴も含め、情報流出がないよう注意が必要です。
④取引先関係は、報酬科金などの支払調書、個人株主に対する配当金の支払調書(三年程度の猶予期間がある)などに記載する取引番号も個人情報保護の適用を受けることになります。